「屋根を壊すくらい」 マルコ2:1-12

この一年は、不眠症に、原因不明の咳に胃痛など、健康的な一年とはいえませんでした。死生学(タナトロジー)の授業で、出会ったのが「ホリスティック医療」「全人的医療」という言葉でした。この医療は、病気が治るという身体的な症状がなくなるというだけでなく、精神的な苦痛がなくなり、環境が整っている、つまり治療をしながら生活するための社会的なサポートがあるかどうかも含めて治療を行っていくというものです。ホリスティック(Holistic)という言葉は、ギリシャ語で「全体性」を意味する「ホロス(holos)」を語源としています。 そこから派生した言葉には、全体(whole)、癒す(heal)、健康(health)、聖なる(holy)などがあります。健康(health)という言葉自体に、もともと「全体」という意味が含まれています。「ホリスティック医療」の観点からいうと、薬を飲んで、不眠が改善されるということだけが重要なのではなく、不眠の原因がわかること、不眠の状況でも私がきちんとした生活ができることが整っていなくては、健康といえないのだとわかってきました。

中風の人は、イエス様の奇跡によって病気が完全に治ったのでしょうか。先日公開された映画「Son of God」では、この中風の人が立ち上がるとき、イエス様が彼の手を取り、彼を立たせ、周りの人は彼が歩くのを支えているような描写をしていました。罪人とされていた中風の人が、周りの人たちからのサポートを受けて歩けるようになる。このことこそ、イエス様の癒しだったのではないでしょうか。罪人は穢れていているので隔離されていました。しかし、この中風の人には、彼をイエス様のところに連れてきてくれる4人の友人がいました。この4人の友人は中風の人のために人の家の屋根を壊すという荒業をやってのけました。けれでも、それは屋根を壊すというだけでなく、社会が作っている差別という壁を壊して、中風の人と共に生きていこうとするその決意の表れだったのでしょう。きっとイエス様は屋根を壊すくらいに人を愛してみなさいと促しておられるのかもしれません。 (広木愛)

「屋根を壊すくらい」 マルコによる福音書2章1-12節