「握った手を開く」マルコ10:17-22

イエス様が旅に出かけようとしていましたら、ある人が走ってきます、「まってくださ~い!」。そしてイエス様のところまで来ますと彼はイエス様の足元にひれ伏して「善い先生…、永遠の命を…、受け継ぐには…、何をすれば…、よいでしょうか」、息を切らしながらと尋ねます。きっと一生懸命に走ってきたのでしょう。まじめな人だったのだろうと思います。「永遠の命を受け継ぐ」なんだか難しい言葉です。

「受け継ぐ」というのは、例えば「先祖代々受け継いできたこの家」とか言ったりします。お父さんも、おじいちゃんも、そのまたおじいちゃんも住んできたこの家が今度は私が大切にする、次、次と手渡しして私にたどりつく、そういうことを「受け継ぐ」と言います。何を受け継ぐか、というと「永遠の命」。永遠ということは終わらない、ずーっと続くということです。ずーっと続くのであれば、ずーっと自分が持っているはずですから、手渡ししないはずなのですが、それを引き継ぐ、つまり、ここで言う「永遠の命」というものは自分ひとりで持っているものではなく、お父さんが大事にした気持ちを、私が大事にし、そして子どもにも大切にしてもらいたい、この場所でこれからもずっとずっと、私の子どもも、その子どもも、そのまた子どもも暮らして欲しい。命がいつまでも永遠に受け継がれてゆく、それが「永遠の命を受け継ぐ」ということです。

私が幸せになり、私の子どもも幸せにここで暮らして欲しい、そのためにはどうしたら良いのでしょうか?と尋ねているのです。非常に家族思いの優しいひとなのですね。

それに対してイエス様は「行って持っている物を売り払い、貧しい人々に施しなさい」と言われます。受け継いだものを売り払い施せ、それは分かち合うという事です。もし、本当にあなたの子に「命」を手渡したいなら、それは富を手渡すのではなく、共に生きる事を手渡しなさい。助け合う関係を作って、その中で子どもが安心して生きられるようにしなさい、そうイエス様は語られるのです。人間は神との関係、人との関係に生きる生き物だからです。(牧師・田中伊策)

「握った手を開く」マルコによる福音書10章17-22節